p63は、ヒトではTP63p63)遺伝子にコードされるタンパク質である。

TP63遺伝子はp53がん抑制遺伝子の発見から約20年後に発見された遺伝子で、構造的類似性をもとにp73とともにp53遺伝子ファミリーを構成する。p53p63p73の系統学的解析からは、このファミリーの中ではp63が最初に存在し、そこからp53p73が進化したことが示唆されている。

機能

p63はp53ファミリーの転写因子である。p63-/-マウスでは四肢の欠損のほか、歯や乳腺など、間葉と上皮の相互作用によって発生が行われる組織の欠損を含む、いくつかの発生上の欠陥がみられる。TP63遺伝子からは代替的プロモーターによって2つの主要なアイソフォーム(TAp63とΔNp63)が産生される。ΔNp63は皮膚の発生や成体幹細胞/前駆細胞の調節など複数の機能に関与している。TAp63の機能は主にアポトーシスに関するものに限定されており、卵母細胞の完全性の維持に機能していることが示されている。また、TAp63が心臓発生や早老にも寄与していることが明らかにされている。

マウスではp63は膜タンパク質PERPの転写を担っており、皮膚の正常な発生に必要である。ヒトのがんにおいても、p63はp53とともにPERPの発現を調節している。

卵母細胞の完全性

卵母細胞では、染色体が正しく整列していない細胞や、修復が不可能な染色体を有する細胞をアポトーシスによって除去する独特な品質管理システムが存在する。この監視システムは線虫やハエからヒトまで保存されており、p53ファミリーのタンパク質、特に脊椎動物ではp63タンパク質が中核的役割を果たしている。減数分裂時に相同組換え過程によって形成されたDNA二本鎖切断を修復できない卵母細胞は、p63と関連したアポトーシスによって除去される。

臨床的意義

TP63遺伝子には、疾患の原因となる変異が少なくとも42種類発見されている。TP63の変異は口唇口蓋裂が特徴となる、いくつかの奇形症候群の原因となっている。TP63の変異は、AEC症候群(ankyloblepharon-ectodermal defects-cleft lip/palate syndrome)、ADULT症候群(acro-dermal-ungual-lacrimal-tooth syndrome)、EEC症候群3型(ectrodactyly-ectodermal dysplasia-cleft lip/palate syndrome 3)、四肢-乳房症候群(limb-mammary syndrome)、非症候群性口唇裂口蓋裂8型(isolated cleft lip/palate; orofacial cleft 8)と関連している。近年、EEC症候群患者由来のiPS細胞を用いた実験によって、TP63の変異による上皮運命決定の欠陥が低分子化合物によって部分的にレスキューされる可能性が示されている。

分子機構

転写因子p63は、上皮のケラチノサイトの増殖と分化の重要な調節因子である。近年の研究では、p63のDNA結合ドメインにヘテロ接合型変異を有するEEC症候群患者由来の皮膚ケラチノサイトをモデルとして用いて、全体的な遺伝子調節変化の解析が行われている。p63変異ケラチノサイトでは、上皮遺伝子のダウンレギュレーションや非上皮遺伝子のアップレギュレーションなど、上皮細胞のアイデンティティが損なわれていた。さらに、p63結合の喪失や活発なエンハンサーの喪失がゲノムワイドに生じていた。また、マルチオミクスアプローチによって、p63やCTCFによるDNAループの形成機能の調節不全が疾患の新たな機序として明らかにされている。上皮ケラチノサイトでは、上皮遺伝子に近接するいくつかの遺伝子座は、CTCFによるクロマチン相互作用の内部で制御性クロマチンハブへと組織化されている。こうしたハブには連結された複数のDNAループが含まれており、その形成には静的なCTCFの結合を必要とするだけでなく、転写活性をもたらすためにp63のような細胞種特異的転写因子の結合も必要となる。この研究で提唱されたモデルでは、転写が活発に行われるDNAループの形成にp63が必要不可欠である可能性が示唆されている。

診断における利用

p63に対する免疫染色は、頭頸部扁平上皮癌や、前立腺癌と良性前立腺組織との鑑別に有用である。正常な前立腺では基底細胞の核がp63で染色されるのに対し、前立腺癌は基底細胞を欠くため染色されない。また、p63は肺癌において低分化扁平上皮癌と小細胞癌や腺癌との鑑別にも有用である。低分化扁平上皮癌は抗p63抗体によって強く染色されるが、小細胞癌や腺癌は染色されない。

筋分化した細胞では細胞質での染色が観察される。

相互作用

p63はHNRNPABと相互作用することが示されている。また、p63はエンハンサーを介してIRF6の転写を活性化する。

調節

p63の発現がmiR-203によって調節されており、またタンパク質レベルでもUSP28によって調節されていることを示すエビデンスが得られている。

出典

関連文献

関連項目

  • AMACR - 前立腺癌のマーカーとなる他のタンパク質

外部リンク

  • TP73L protein, human - MeSH・アメリカ国立医学図書館・生命科学用語シソーラス(英語)
  • GeneReviews/NCBI/NIH/UW entry on Ankyloblepharon-Ectodermal Defects-Cleft Lip/Palate Syndrome or AEC Syndrome, Hay-Wells Syndrome. Includes: Rapp–Hodgkin Syndrome
  • OMIM entries on AEC

Photos Bell P63A Kingcobra Aircraft Pictures Aircraft pictures

P 63

P 63

p63 — Postimages

P63